② ワインの村・たかやま

  • HOME
  • ② ワインの村・たかやま

その日の午後、ワイナリーに着いたママンと7匹の猫たち。ワインの村・たかやまは自然豊かな場所で、見渡す限り緑の山々と大空が広がっています。美味しい空気と美しい自然の中で、少年猫たちは大はしゃぎで走り回ったり歌を歌ったり。ミカサとレイは草や花を使って首飾りを編み始めました。
でも、マルだけはやっぱりおっかなびっくり…。

そこへ、ワイナリーのご主人のリュウおじさんが出迎えに来てくれました。
「今日はみんなできてくれてありがとう。」
ママンも久しぶりにリュウおじさんに会えて嬉しそうです。
「やっぱりここは最高ね。空気も美味しいし、ワインも美味しいし。」
「本当にワインのことしか頭にないんだな。」
リュウおじさんにからかわれて少し照れながら、ママンは7匹の猫たちを呼び集めます。
「初めてなのはマルとミカサね。」
そう言って、ママンはマルとミカサをおじさんに紹介してくれました。
「初めまして。マル、ミカサ。」
リュウおじさんの挨拶に、ミカサが元気よく答えます。
「初めまして!リュウおじさん!」
でも、マルはおずおずとママンの足の陰から「初めまして…。」と呟くように挨拶しました。

マルの様子を見て、リュウおじさんは心配そうにママンと目を合わせます。ママンは肩をすくめてぎこちない笑顔を作ります。
「おじさんが怖いのかな?」

リュウおじさんがしゃがんで優しく話しかけると、イタズラ兄弟のピノとメルが言いました。
「おじさん、マルはなんでも怖がるんだよ。」「さっきからずっと怖がってるよ。」
クロも続けて説明します。
「マルは家からも出たがらないくらい臆病だから、初めて来る場所は怖いんだ。」
「そうかい。ここは安全な場所だよ。」
リュウおじさんはマルに笑いかけながら穏やかに話します。
「特に猫にとってはね。」

それを聞いて興味を引かれた少年猫たち。
「なんで?」「どうして?」「なんで猫にとってはなの?」「他の動物には安全じゃないの?」「教えて、おじさん!」と、矢継ぎ早に質問しておじさんを困らせます。一斉に迫られてタジタジのリュウおじさんに代わってママンが答えました。
「ここは猫の神様に守られているの。」
「猫の神様?」
クロが目を輝かせ、トノも細い目を見開いて聞きました。
「にゃぁに?それ?」
それにかぶせるようにピノとメルが続きます。
「前に来た時は言ってなかったじゃん。」「言ってなかった!」

「おや、そうだったかな。」
やっと解放されたリュウおじさんは、ポリポリと頭をかきながら話し始めました。
「ここはね、猫と深いご縁のあるところなんだよ。」

————この辺りには古い言い伝えがあってね。ある大雨の日に子どもが行方不明になってしまったんだ。母親はたいそう心配して、村の者たち総出で探し回ったけど、結局子どもは見つからなかった。川に落ちて流されたとか、イノシシに襲われたとか、天狗にさらわれたと言う者もいた。誰もが諦めかけたその時、どこからともなく2匹の猫の神様が現れて、子どもを連れ帰ってくれたんだ。

リュウおじさんの話に、猫たちはみんな夢中です。マルもママンの足から身を乗り出して聞いています。
「ワインにも猫の神様のご利益があるように、 ワイナリーの入り口には猫のお札を貼ってあるんだよ。気づいたかい?」
首を横に振る猫たち。ママンが嬉しそうに続けます。
「猫の神様に守られたワイナリーなの。そのブドウで作るワインだから、スッキリ澄んだ味わいで心が晴れやかになるのよ♪」
そう言って、ハッとしたように猫たちを見やりました。
「あなたたちはワイン飲めないのが残念ねぇ。」
リュウおじさんが笑いながら
「猫のラベルのワインもあるんだよ。あとで見せてあげようね。」
そんなリュウおじさんの言葉もろくに聞かずに、クロを始め少年猫たち、レイとミカサも、お互いに目を見合わせました。

「神様に会いに行こう!」

号令のように誰ともなく叫び、次の瞬間には飛び出していった猫たち。マルもミカサに手を引かれて、気づいたら一緒に駆け出していました。ワイン蔵や倉庫や林の中…。いちいち驚きながら必死でみんなに付いて行くマル。
「ちょっと待ってよぉ!」

でも、どんどん進む仲間たちに置いていかれて、ついにマルはみんなとはぐれてしまいました。なんとか追いつこうと周りも見ずにガムシャラに走った結果、疲れて立ち止まった時には自分がどこにいるのかも分からなくなってしまいました。
「みんなは…?ここは、どこなんだろう…?」
マルはすっかり迷子になってしまいました。