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Premiere


弱虫マルと旅猫

第1章:Premiere

弱虫マル

 とある町の外れにある赤レンガの一軒家。玄関にはピンクやブルーのボールが転がっていて、中からは元気な猫たちの声が聞こえてきます。

ここは行く当てのない猫たちを預かる猫の家「Le lien」(ル・リアン)。Le lienではこの家の主(あるじ)・ママンと7匹の猫たちが仲良く暮らしています。ママンは、いつも元気なみんなのお母さん。今はみんなの朝ごはんを作るため、キッチンでレンズ豆のスープをお鍋で煮ているようです。

 

 イタズラ好きの兄弟猫、ピノとメルにつまみ食いされないように注意しながら、鼻歌まじりに塩胡椒を振るママン。目の前のキッチン窓には、いくつものコルクがきれいに並べられています。

ワインが何より大好きなママンがホクホクの笑顔でグラスを空けたあと、コルクは猫たちのお気に入りのおもちゃになっていたのです。

 

 ママンは、ふと部屋の隅でつまらなそうに、使い古してヒビの入ったコルクを転がしている猫がいることに気がつきました。先がちょっと折れ曲がったカギしっぽが、寂しそうに揺れています。それは、グレーの縞模様の毛に、ピンクの鼻先に斑点みたいな黒丸が付いているマルでした。

「マル、そんなところでどうしたの?」

 

 マルはおとなしくて心優しい男の子でしたが、最近少し元気がないのがママンには気がかりだったのです。

優しい性格のマルは、同時にとても怖がりでもありました。他の猫が外で遊ぶときでもマルだけ家に残ったり、一緒に付いて行っても輪の中に入れなかったり。何かにチャレンジするのもニガテ…。それで、少し前からリーダー猫のクロに「弱虫マル」と言われるようになってしまい、落ち込んでいる様子なのです。

 

 ママンが心配してマルに近づきますが、マルはそっぽを向いてしまいます。しょんぼりしたカギしっぽに向かって、ママンは話しかけます。

「マル、1人でどうしたの?」

でも、すっかりふてくされてしまっているマル。

「どうせ僕は弱虫なんだ。」

そう言って、ママンにコルクを投げつける始末です。

「どうしたの、マル…?」

困ったように微笑むママンに、マルは堰を切ったように言い放ちました。

「だって僕は捨てられた子なんでしょ?そのコルクみたいにいらないものなんだ!ママンだって本当のママじゃない。僕なんていない方がママンもいいんだ!」

「マル…。」

コロコロとママンの足元に転がる、ヒビの入ったコルク。ママンの悲しい顔も、マルには見えていませんでした。

 

 Le Lienにいるのは、みんな何かの理由で引き取られてきた猫たちです。子どもを育てるのが難しくなった家の子、親猫が事故で亡くなってしまった子、虐待を受けて逃げ出してきた子もいます。

マルは2年前の夏の大雨の日に、泥だらけになって山の中をさまよっていた赤ん坊のマルを見つけた農家さんを通じてママンの元へとやって来たのです。この家に来てしばらく経った頃、そのことを他の猫から聞かされたマルは、自分は捨てられた子どもだと思い込むようになっていました。

 

 リーダー猫のクロは、自分の殻に閉じこもりがちなマルを見て、「弱虫」呼ばわりすれば悔しがってぶつかってくるだろうと考えたのですが、逆効果だったようです。

ママンに背中を向けたマルのカギしっぽは、まるで「話しかけないで」と言っているようでした。どうしたものかとため息をつくママン。

 

 そのとき、チャイムが鳴って「お届け物です〜。」と郵便屋さんがやって来ました。ママンが頼んでいたお気に入りのワインが届いたのです。そのワインを見てピン!と思いついたママン。仲良しのワイナリーにピクニックに行こうと提案します。

その提案に猫たちは大喜び!でも、マルだけはつれない態度…。

「僕はいいよ。留守番してるから、みんなで行ってきなよ。」

そう言って動こうとしないマル。

「みんな一緒じゃなきゃダメよ。」

と、最年少の妹猫ミカサがマルの腕を引っ張ります。

「そうよ。マルも一緒に行きましょ。」

勉強家のお姉さん猫・レイからも促され、マルはしぶしぶ行くことにしました。